肝(きも)の冷える話

糖尿病患者の意外な死因

糖尿病で肝(きも)をつぶす?

数日前から喉の調子がおかしかった。納期の迫った仕事を抱え残業続きだった、というのも悪かった。熱っぽくて、体がだるく、どうしようもない。どうせ風邪だろうから薬をもらって出勤しようと、かかりつけの医院を受診した。そこは三代続く医院で、今は幼なじみの同級生が後を継いでいる。午後から大事な会議がある。「今日は休め」と言われたら、点滴でも頼もうなどと、ふらつく頭で考えていた。彼も、顔を見た途端にピンと来たのだろう。看護師に点滴の指示を出すと、「糖尿病のうえにかなりの酒飲みだったな。一度、肝臓の検査もしておけよ」カルテを書きながら、そんなことを言う。熱に冒された頭では、今一つ脈絡がつかめずにいると、

「糖尿病患者の死因の17.5%が
 肝疾患、というデータがあるんだ」

日本糖尿病学会が行った糖尿病患者の死因に関する全国調査の結果だそうだ。それによると、日本人の糖尿病患者のうち、12.2%が肝癌で、5.3%が肝硬変で亡くなっているらしい。しかも、悪性新生物いわゆる癌の中でも肝癌での死亡がトップにあがっていると教えてくれた。肝をつぶすとは、このことだ。糖尿病だと肝臓を悪くするリスクもあがるということなのか。背筋に走った悪寒は、断じて風邪によるものではなかった。

「肝臓は自覚症状が出てからでは、遅いからな。早期発見、早期治療に勝るものはない。まだまだ人生を謳歌したいだろ。」

「ああ、そうだな。仕事が一段落したら検査に行くよ。お前と酒も飲みたいし、ゴルフもしたいから。」

監修:帝京大学 医療技術学部 学部長 滝川 一 先生